はじめに 三島市が今年3月から、道路や水道の台帳図をウェブで見られるようにした。公開型GISというものだ。触ってみたので、気づいたことを書いておく。先に断っておくと、これは外から見える範囲の話である。市役所の中でどんなシステムが動いているのか、私は知らない。誰でも開ける画面を開いて、見えたことだけを書く。
公開されているのは4種類。道路台帳図、水道台帳図、下水道台帳図、住居表示街区図。報道によると、地図の問い合わせが建設業者や不動産業者から年間9,600件ほどあって、窓口の対応に3,200時間かかっていたらしい。職員が1年半、地図を出し続けている計算だ。それをウェブに置けば消える。狙いとしてはまったく正しいし、効果も出るだろう。
だから以下は、この地図への批判ではない。この地図を見て考えたことだ。
企業は30年かけて何をしてきたか
私は30年、企業のデータ活用の仕事をしてきた。振り返ると、大企業がやってきたことには順番がある。
最初にやったのは、データを取り出せるようにすることだった。1990年代、売上は営業のシステムの中、在庫は工場のシステムの中、顧客情報はまた別、という状態を、なんとか一箇所に集めて取り出せる形にする。今から思えばそれだけのことに、各社が何年もかけた。でも、それだけのことが革命だった。
取り出せるようになると、次は分析が始まる。比べる、集計する、予測する。そのうち分析結果が経営判断に使われるようになる。どこに投資するか、何をやめるか、数字を見て決めるようになる。さらに進むと、判断が日々の業務に組み込まれる。発注も価格も人の配置も、現場が数字で回るようになる。そして今は、その判断自体を自動化しようとしている。人を介さずにシステムが決める。AIというのは、この30年の道のりの最後に出てきたものだ。
で、三島の地図である。
この道のりのどこにいるかというと、最初の段階の手前にいる。取り出せないからだ。
一回のクリックで、一個
下水道の地図で、マンホールをクリックしてみる。すると出てくる。
| 項目 | 表示された内容 |
|---|---|
| 人孔種別 | 特1号 |
| 深さ | 2.16 |
| 地盤高 | 23.87 |
| 処理分区 | 中央分区 |
| 幹線流域 | 中央汚水1号幹線 |
| 排水方式 | 分流(汚水) |
| 幹枝区分 | 枝線 |
| 施工年度 | 1983 |
| 路線番号 | 2154-1-9 |
正直、驚いた。深さ、地面の高さ、汚水がどの幹線に流れていくか、そしていつ入れた管か。昭和58年。43年前だ。中身は濃い。これだけで判断の材料になる。
ただし、一回クリックして、一個。
画面に見えている範囲だけでマンホールは数十個ある。市内なら数千だろう。昭和58年の管が市内のどこにどれだけあるのか知りたければ、数千回クリックするしかない。集計はできない。地図に色を塗って眺めることもできない。見えるのに、取り出せない。
もうひとつ。道路の地図を開いているとき、水道の地図は重ねられない。4種類の地図は、それぞれ別の画面として立ち上がる。4枚の紙が別々の机に置いてある、と思えばいい。
なぜそうなっているのかは、所管を見ると想像がつく。住居表示は市民課、道路は土木課、水道は水道課、下水道は下水道課。システムの形が、組織の形をそのまま写している。窓口に道路台帳を取りに来る人は道路台帳しか要らないのだから、4枚バラバラで何も困らない。窓口の代わりという目的に対しては、正しい設計なのだ。
課によって作り込みが違う
細かい話をひとつ。
下水道の画面に出てくる項目名は、上に書いた通り全部日本語だ。台帳としてちゃんと設計されている。
ところが住居表示の画面を開くと、項目名がローマ字になる。shimei、choumoku、oazacode、gaikufugou。それに shape_length、shape_area という項目が付いている。
これには理由がある。地図データを受け渡しするときに世界中で使われている古いファイル形式があって、項目名は半角10文字までという制約がある。日本語が入らない。だから業界では、日本語をローマ字にして10文字に切り詰めて名前を付ける。gaikufugou(街区符号)は数えるとちょうど10文字である。shape_length と shape_area は、その形式が勝手に付ける長さと面積の項目だ。
つまり住居表示のデータは、どこかで作られたファイルが、項目名も直されずそのまま載っている。下水道は台帳として作り込まれている。同じシステムの上で、課によって扱いがまるで違う。
これも責める話ではない。予算がついた業務から順に整備されるのだから、どの自治体でもこうなる。ただ、作り込みが揃っていないデータ同士は、突き合わせられない。
それでも、番号は振ってある
ここまでは無いものの話。ここからは有るものの話をしたい。
住居表示の街区をクリックすると、こう出る。
| 項目 | 表示された内容 |
|---|---|
| id | 30201001 |
| 町丁目 | 大宮町2丁目 |
| 大字コード | 302 |
| 街区符号 | 1 |
| 面積 | 46551.72 ㎡ |
この 30201001 という番号、大字コード302と街区符号1を機械的に組み合わせて作ってある。行き当たりばったりの番号ではなく、体系として設計されている。しかも面積が確定している。
住居表示の街区というのは、法律に基づいて行政が定めた公式の区画である。三島市という空間を、公式に、漏れなく割った単位だ。その一つひとつに番号が振ってあるということは、この番号に他のデータをぶら下げられるということになる。実際、大字コードは国勢調査の地域別の統計とそのまま突き合わせられる。人口、世帯、年齢構成。国がタダで公表しているデータが、この番号でつながる。
道路にも番号がある。112014、116005。橋にも一本ずつ名前と番号が付いている。8834無名橋0365、8692御殿橋0122。下水道には施工年度と地面の高さが入っている。水は低い方へ流れるから、高さが分かれば、どこに水が溜まるかは計算できる。
場所の番号があって、年度があって、高さがある。
三島市はこれを持っているのだ。使っていないだけで。
足りないものは二つ
まとめて取り出す仕組みがない。これが一つ。クリックで一個ずつではなく、全部を一度に取り出せれば、30年前に大企業がやった最初の段階に入れる。
もう一つは、載っていないデータ。人がどこを歩いているか。建物がどんな状態か。この二つはたぶん市が持っていない。というより、持っている自治体がほとんどない。
この二つが揃うと、答えられるようになる問いがある。昭和58年の管はどこにどれだけあるのか。その沿道に今何人住んでいて、20年後に何人住んでいるのか。そこは水が溜まる場所なのか。人は実際にどこを歩いているのか。
要するに全部、どこから手をつけるか、という問いだ。全部を更新する金はどこの市にもない。だから順番を決めるしかなくて、順番を決めるには材料が要る。
測れるものを測ってから、測れないもので決める
私は『ムダの方法論』という本で、数字にならないものの話を書いた。判断、関係、長い時間軸、測れないもの。そういうものこそが組織を支えていて、AIにはそれが見えない、という話だ。
データで測れと言っている本稿と矛盾するじゃないか、と思われるかもしれない。
矛盾しない。順序の話をしている。
測れるものを測りきって、はじめて、測れないものが何なのかが分かる。測れるものを測らないまま「総合的に判断した」と言うなら、それは判断ではなくて勘である。勘は説明できない。説明できないものは通らない。
三島市が持っているのは測れるものだ。施工年度、地面の高さ、街区の面積、道路の番号。測れるものが、測られていない。その状態で賑わいだの愛着だの街の記憶だのを語っても、根拠がないことの言い換えにしかならない。
測れるものを測る。そのうえで、測れないもので決める。決めるのは人間で、データは決めない。決める人の前に材料を全部並べる。それだけのことが、まだ誰もやられていない。
最後に
繰り返すが、これは外から見た話である。市役所の中では4枚を重ねられるシステムが動いているのかもしれないし、集計も分析もとっくにやっているのかもしれない。それは外からは分からない。
ただ、市民に見えるのはこの4枚の地図で、市民に見せているものが、その組織のデータの考え方をいちばん正直に表す。
窓口の3,200時間を減らすための地図。第一歩としては正しい。次は、この地図で何を決めるかだと思う。
※ 本稿で言及したのは、三島市地図情報提供システム(公開型GIS)。2026年3月1日運用開始。観察は2026年7月時点のもの。
本稿の取り扱いについて
三島市の公開型GISを触ってみた/五十嵐こと(2026年7月16日 公開)
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